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映画『借りぐらしのアリエッティ』〜小さな人たちの視点〜

毎年夏の恒例みたいな、映画の風物詩となっている宮崎アニメのジブリ映画。今夏は、『借りぐらしのアリエッティ』が、上映開始と同時に話題となっています。早速、この映画を観るチャンスがありましたので、今月はみなさまに速報でお伝えしようと思います。

ある年の夏、お母さんの育った古い屋敷に12才の少年・翔がやってきます。彼は心臓病を患っていてもうすぐ手術を受ける予定になっているため、それまでの時間をゆっくりと過ごせるようにと、療養のために一週間だけ、母親が育った古い屋敷で過ごすことになりました。
この家には、翔の叔母さんとお手伝いのハルさんという二人のお婆さんが暮らしていましたが、もう1人、翔にとって忘れることのできない人とも運命的な遭遇をすることになるのです。
それは、その屋敷の床下に住んでいる小人の少女・アリエッティ。しかし、彼らは絶対に、「人間に見られてはいけない」・・・それが小人たちの掟だったのです。

イギリスの児童文学、メアリー・ノートンの『床下の小人たち』を下敷きに宮崎駿氏が企画し脚本を書いた今作は、人間の世界から少しずつモノを借りて生活している小人たちの知恵と工夫の借りぐらしの古典的な家族の風景が描かれています。
それはまるで「おやゆびひめ」の世界です。「小さな人たちの視点」をテーマに、この映画を観ていくと、ドキッとしたり感心する名場面がたくさんありました。たとえば、絵皿のような壁飾りになってるボタンや、鉛筆キャップが一輪挿しだったり、お弁当用の醤油さしが樽代わりに使われていたり、紅茶の空き缶が加工されて箪笥や引き出しに変わっていたり・・・と、素晴らしい生活の知恵と工夫には、目を見張るモノがあります。

そして何より極めつけは、「借りぐらし」の方法とは何かがわかる数々の名場面です。

アリエッティがはじめてお父さんの手助けをして、「借りぐらし」に出かける・・・、このときの緊張感は、観ているこちらまでもが息を潜めて、誰にも見つからず成功するようにと祈りました。
そんな緊張感の中、お父さんが手際良く両面テープを手足の裏に貼って、颯爽と壁を直角に登っていったときの格好良さは、そばで見守っていたアリエッティーでなくても、心から拍手したい気分でした。

そして、翔とアリエッティの衝撃的な出会いは、この作品の中でも最も重要な部分ですが、このときの二人の様子を作家の梨木香歩さんはこんな風に書いています。
『初対面のときの翔の声は、空いっぱいに遠雷のように響き渡る・・・。きっと、小さい人たちにはそう聞こえるかもしれない・・・』と。

また、アリエッティがずっとこれまで信じてきた、人間こそが借りぐらしの自分たちのために存在する「滅びゆく種族」だと思っていたことが、翔のひと言で一瞬にして屈返されて動揺してしまったことなど、今日の「借り」を成功させて、明日へ向かって生きる、まさしく生きる力のせめぎ合いの瞬間に、二人がそれぞれ自分の抱える課題と向き合い大きな成長をとげていくのが伝わってくるのは感動的です。

翔は、こう言います。
『アリエッティ、君は僕の心臓の一部だ・・・!』

さてさて、まだ映画をご覧になっておられない多くの方々のために、物語のお話は、この辺りにしておくことといたしましょうか。

二人の出会いのシーンを彩る庭の背景なども、どこかしら懐かしく感じられ癒された気がします。また同時に、人類も小さい人たちと同じように、自然からいろんなものを借りて生きていることに気づかせてくれる感動の作品でした。

『もう1人の誰かを生きる・・・』

映画を見終わった瞬間、私は大好きなこの言葉を思い出し、何度も心でつぶやいていました。

惑星科学者で東大名誉教授の松井孝典氏も、梅原猛氏との対談『地球の哲学』の中で、"レンタルの思想"という考えを提起されていますが、その中に、「われわれの一生も、生きている間だけ地球から人体を構成する元素を借りてきて、人体という容器をつくって生きている(中略)われわれの生命の営みはレンタルが本質であって、所有というのは大脳皮質の錯覚にすぎない」と語っています。

自然の掟を破って欲望を肥大化させてしまうと、地球はやがて枯渇し、かつて恐竜が絶滅してしまったように人類という"種"も滅びてしまうかもしれません。

思えば、宇宙と地上の「火、水、風」は、決して所有することはできません。

創意工夫して暮らすことの意味や、借りてきたモノだからつまらないのでなく、それを活かしてどのように愉快に暮らすのかなど、アリエッティたちの生活に対する積極的な姿勢から伝わってくる生き方へのメッセージは、今回の映画の大事なテーマだった気がします。

さて、みなさんもこの夏、翔とアリエッティのように、小さき人たちとどこかで、出会うことになるかもしれません。

そこでは、どんな物語が生まれることでしょうか・・・♪

例年にない猛暑の夏です。
みなさま、どうぞお健やかに・・・。

〜たちのゆみこ〜